福井地方裁判所 昭和43年(ワ)115号 判決 1971年3月26日
原告 山本哲男 外一〇名
被告 福井放送株式会社
主文
一、原告らが、被告に対し、労働契約上の権利を有することを確認する。
二、被告は原告らに対し、別紙第一目録(五)記載の金員および右金員のうち、同目録(一)記載の金員については昭和四三年四月一日から、同目録(二)記載の金員については同四四年四月一日から、同目録(三)記載の金員については同四五年四月一日から、同目録(四)記載の金員については同四六年一月一日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三、被告は原告らに対し、昭和四六年一月一日から毎月二五日限り別紙第二目録記載の各金員を支払え。
四、原告らのその余の請求をすべて棄却する。
五、訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一、当事者の求める裁判
一、原告ら
(一) 原告らが、それぞれ被告に対し、労働契約上の権利を有することを確認する。
(二) 被告は原告らに対し、それぞれ別紙第三目録(五)記載の金員および右金員のうち同目録(一)記載の金員については昭和四三年四月一日から、同目録(二)記載の金員については同四四年四月一日から、同目録(三)記載の金員については同四五年四月一日から、同目録(四)記載の金員については同四六年一月一日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
(三) 被告は原告らに対し、昭和四六年一月一日から毎月二五日限り別紙第四目録記載の各金員を支払え。
(四) 被告は原告らに対し、昭和四六年一月一日以降毎年四月二五日および一〇月二五日限り別紙第五目録記載の各金員を支払え。
(五) 訴訟費用は被告の負担とする。
および右金員支払部分について仮執行の宣言。
二、被告
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
第二、請求の原因
一、被告は肩書住所に本社を有し、民間放送事業を営む株式会社であり、原告らは、いずれも被告の従業員であり、日本民間放送労働組合連合会福井放送労働組合の組合員である。
二、原告らは被告に対し、賃金、夏季・年末賞与等の請求権を有しているが、被告は昭和四二年一二月一五日以降同四五年一二月末に至るまで、原告らに対し右賃金等の一切の支払をせず、この経過からみて、将来も任意に支払わないことが予想されるので、同四六年一月一日以降の将来の賃金をも含めたこれら金員の支払を求める。
しかして、これら金員の算定は、被告がその従業員で組織されているFBC労働組合との間に昭和四〇年度以降毎年締結してきた労働協約に基づいて行われるべきである。すなわち、被告とFBC労働組合とは昭和四〇年五月三〇日賃金協定を結び、同年六月二〇日から賃金規定を改正実施し、その後の賃金増額に関し同四一年三月三一日、同四二年四月七日、同四三年四月九日、同四四年四月二一日、同四五年四月一一日にそれぞれ賃金改訂の協定をした。その結果当初の賃金規定はその都度実質的に改訂された。また、被告はFBC労働組合との間に昭和四三年から同四五年までの間毎年夏季・年末賞与、レクリエーシヨン補助金に関する協定を結んだ。そして前記各協定は、原告らを含む福井放送労働組合の組合員一六名を除くすべての従業員一六〇名に適用されているから、労働組合法一七条により原告らにも拡張適用されるべきである。
三、前記各協約の内容は左記のとおりである。
(一) 昭和四〇年度(昭和四〇年四月一日から翌年三月三一日までをいい、以下同様である)賃金協定によると、
1 賃金は基準賃金と基準外賃金とから成り、前者は基本給・役職手当・家族手当・技術手当・年功手当に分けられる。
2 基本給の算定は、従業員を一般職と特別職とに分け、その各々につき標準基本給体系を定め、各体系は従業員の実年令(年度始め直前を基準日として計算し、月数を切捨てた満年令)に対応する数額をもつて構成する。
3 右基本給は勤務内容、勤務能力を査定することによる修正と中途採用者(入社年度始期直前における実年令が、当該従業員の最終卒業学校卒業年三月末日における必要最低年令数を超える者をいう)に対しては各年度の実年令を賃金体系にあてはめ、その数額に別紙第六目録記載の中途採用者基本給算定方式表により算出した換算率を乗じた金額とする修正がある。右換算率は中途採用者基本給算定方式表の横軸に入社後経過年数をとり、同表縦軸に前記中途年数(同表の説明参照)をとり、右両数の合するところにより決定する。
4 技術手当は、法定の「無線従事者」に対しそれぞれ左記のとおり支給される。
記
第一級無線通信士 月額 一、〇〇〇円
第二級無線技術士 〃 一、〇〇〇円
第一級無線技術士 〃 三、〇〇〇円
5 年功手当は、入社後満三年経過した者につき一〇〇円加給する。
6 家族手当は、総額三、〇〇〇円を限度として、左記のとおり支給する。
記
配偶者および直系卑属のうち一人 月額 各七〇〇円
直系卑属三人まで 〃 各五〇〇円
直系卑属四人以上およびその他の者 〃 各三〇〇円
(二) 昭和四一年度ないし同四三年度の賃金協定は、標準基本給体系の数額を訂正したものであり、昭和四二年度、同四三年度のそれは別紙第七目録のように数額が改訂されている。
(三) 昭和四二年度の賃金協定により食事手当が新設され、月額一、〇〇〇円を食券で支給することになつた。
(四) 昭和四三年度の協定で通勤手当が新設され、月額一、五〇〇円を限度として実費支給し、実費のうちこれをこえる部分は月額二、四〇〇円を限度としてその二分の一を加算する。
(五) 昭和四四年度の賃金協定は次のとおりである。
1 賃金体系を変更し、賃金のうち基本給を本給と職能給に分け、本給は一級から三七級までの勤続指数により表わし、毎年一級ずつ上位に移行する。職能給は識見、技術能力、勤務成績などを評価して決定する。その他の事項は賃金規定の定めに従う。
2 会社員の平均昇給額は八、二〇〇円でその内訳は
本給定期昇給 一、四五二円
本給一律ベースアツプ 一、〇〇〇円
職能給昇給 五、三一〇円
調整 四三八円
であり、昭和四四年三月三一日現在事実上勤務している者で、なお引続き勤務する者を対象とする。
3 通勤手当の限度額等を変更した。月額二、〇〇〇円を限度として通勤に要する交通費(但し六ケ月分定期購入費の六分の一)を支給する。月額二、〇〇〇円をこえる分については月額三、六〇〇円を限度として超過分の半額を右二、〇〇〇円に加算して支給する。
(六) 昭和四五年度の賃金協定は次のとおりである。
1 会社員の平均昇給額は八、六四六円で、その内訳は
本給定期昇給 一、四三六円
職能給昇給 七、一三九円
調整 七一円
であり、昭和四五年三月三一日現在事実上勤務している者で、なお引続き勤務する者を対象とする。
2 家族手当の数額を次のとおり改訂する。
配偶者および直系卑属のうち一人 月額 各一、〇〇〇円
直系卑属三人まで 月額 各七〇〇円
直系卑属四人以上およびその他の者 月額 各五〇〇円
3 食事手当の数額を二、〇〇〇円に改訂し、食券で支給する。
4 通勤手当は月額四、二〇〇円を限度として実費支給する。
(七) 昭和四三年から同四五年までの夏期・年末各賞与に関する協定による算式は別紙第八目録のとおりであり、何れも不就労条項、査定条項の定めがある。
また右三年間のレクリエーシヨン補助金に関する協定によると、毎年四月と一〇月にそれぞれ春季、秋季レクリエーシヨン補助金を支給する。支給は入社後六カ月以上を経過した従業員について一律五、〇〇〇円とし、支給日を同月中とする。
四、ところで前記協約のうち
(一) 不就労条項は原告らに適用の余地がない。
被告は昭和四〇年五月一六日原告らに対し「自宅待機命令」を出して以来、一貫して福井放送労働組合員を職場から排除し、昭和四四年一月になつて組合員山本敏子の就労を認めただけである。組合は被告に対し職場復帰を求め就労を要求し、そのための団体交渉の申入れをしてきたが、被告は組合の潰滅を図る目的で昭和四三年末まで団体交渉にすら応ぜず、今日に至るも就労を許さない。
このように就労の機会を奪つたのは被告であるから、不就労による不利益を原告らに課すこと、すなわち不就労条項を適用することは許されない。
(二) 査定条項が合理性をもつものとして許容されるのは、査定対象が従業員の勤務状況に限定されねばならない。また本件における査定条項の形式は、客観的に算定しうる一定数額中の何%かについて会社の査定を認めるというもので、減額査定にほかならない。してみると、被告が原告らから就労の機会を奪つて査定の対象をなくしておきながら、このような減額査定条項を適用しようとするからには減額分は零というべきであるし、仮に査定対象がないことを理由に、査定分につき請求権を生じないものと解釈されるのなら、右協約を原告らに適用しようとすることは信義則に反し、かつ不当労働行為に該当するものとして許されない。
仮に右主張が認められず、原告ら主張の請求権の数額から査定分が控除されるとすれば、被告は原告らの就労を拒絶し、その結果原告らが勤務成績を向上し査定部分満額を受くべき機会を失わせたことになるから、被告は原告らに対し、請求権の減少分=査定分の損害を賠償すべきである。
(三) 食事手当を食券で支給する旨定めているが、これは賃金としての食事手当の支払方法を通貨ではなく食券で支給してもよいとの合意にすぎず、被告は原告らに対し、右協定による任意の支払をしていないから、賃金通貨払の原則に立つて、通貨による支給を請求することができるといえる。
五、(一) 基本給
原告らと被告との間の各入社契約締結の日、最終学歴、生年月日は別紙第九目録記載のとおりである。
昭和四二、四三年度の原告らの基本給は、前記各年度の基本給体系表上の各原告の年令に対応する欄記載の数額であり、原告高木、同福地、同浜野、同田辺、同中川は中途採用者であるので、中途採用者基本給算定方式表による換算率を適用して修正を加えた。
昭和四四、四五年度の基本給につき、被告は原告らにこれを明示せず、また職能給の導入により客観的資料によりこれを算定することができなくなつた。そうである以上、原告らは、少なくとも各年度の社員の平均額の増額をしたものとみるべきであり、自ら査定の機会を放棄した被告が、平均額以下の主張をすることは許されない。よつて、昭和四四年度の基本給は、同四三年度のそれに平均増額分八、二〇〇円を、同四五年度の基本給は、同四四年度のそれに平均増額分八、六四六円をそれぞれ加算したものとして算定した。
その結果、原告らの各年度の基本給は別紙第一〇目録記載のとおりとなる。
(二) 技術手当
昭和四二年当時、原告山本、同高木、同坂本、同浜野、同中川は別紙第一一目録記載の資格を有しており、技術手当請求権を有している。
(三) 年功手当
原告らの各入社年月日は別紙第九目録記載のとおりであるから、前記賃金協定に従つて計算すると、別紙第一二目録記載のとおりとなる。なお、同一原告につき各年度に二つの数額の記載ある分は、年度中に経過年数が増え、年功手当が増加したものである。
(四) 家族手当
原告らのうち、別紙第一三目録記載の原告には、同目録記載の扶養家族があり、各原告は扶養家族に変動が生じたその月のうちに、賃金規定所定の届出をしているので、届出の翌月から別紙第一四目録記載の額の家族手当請求権を取得した。
(五) 通勤手当
原告らは何れも訴状記載の肩書地に居住するが、通勤に際し別紙第一五目録記載の交通機関を利用するのが最も経済的であるからこれを利用している。協定所定の方法で算定すると、右目録記載の額の請求権となる。
(六) 食事手当
原告らは何れも昭和四二年度から同四四年度までは毎月一、〇〇〇円の、同四五年度からは毎月二、〇〇〇円の食事手当請求権を有する。
(七) 夏季・年末賞与
原告らの昭和四三年度から同四五年度までの各年度の基本給は、前述したように別紙第一〇目録記載のとおりであるから、同第八目録記載の右各年度の夏季・年末賞与に関する協定に従つて算定すると、別紙第一六目録記載のとおりとなる。
(八) レクリエーシヨン補助金
原告らはいずれも昭和四三年から同四五年まで、毎年春・秋に各五、〇〇〇円ずつのレクリエーシヨン補助金請求権を有している。
(九) 原告らは右(一)ないし(八)の各請求権を有しているが、右のうち昭和四五年一二月末日に弁済期の到来しているものを総計すると、別紙第一七目録記載の原告別合計欄記載の金額、すなわち別紙第三目録(五)記載の金員となるので、これの支払を求める。
(一〇) 遅延損害金
右(九)記載の金員のうち、昭和四二年度から同四四年度までの分(別紙第一七目録記載の年度別合計欄記載の金員)については弁済期後であること明らかな各年度末の翌日、すなわち四月一日から、昭和四五年四月一日から同年一二月末までの分については弁済期後の同四六年一月一日から、支払ずみまでそれぞれ民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。なお、別紙第一七目録記載の各年度別合計欄記載の金員は別紙第三目録(一)ないし(四)の金員と合致する。
(一一) 将来の請求
前述したように、原告らは昭和四六年一月一日以降の将来の賃金支払を求めるにつき利益を有するところ、被告の賃金支給は毎月二五日であるから、前記(一)ないし(四)および(六)の昭和四五年度分を合計した別紙第一八目録合計欄記載の金員すなわち別紙第四目録記載の金員につき、昭和四六年一月一日以降毎月二五日限り支払うよう求める。
また通勤手当については、六ケ月定期を購入することを前提として、毎月四月二五日と一〇月二五日限り、別紙第一五目録記載の昭和四五年一〇月から六ケ月の通勤手当額すなわち別紙第五目録記載の各金員の支払を求める。
第三、請求原因に対する認否および主張
一、請求原因事実一は認める。
二、同二のうち、被告が原告らに対し、昭和四二年一二月一五日から賃金等の支払をしていないこと、FBC労働組合との間に原告ら主張の賃金に関する協定、夏季・年末賞与に関する協定を締結したことは認める。
原告らは、労働組合法一七条による協定の拡張適用を主張するが、これは理由がない。
(一) EBC労働組合はその組合員を一般従業員に限り管理職・嘱託従業員を含まない。したがつてこれら管理職・嘱託を除いた一般従業員が同種の労働者ということができる。また同条にいう「同一の労働協約の適用を受ける者」とは、本来的に、締結された労働協約によつて律せられる者である当該労働組合の組合員に限られる。そして四分の三以上になるか否かは労働協約が締結された時点をいうのではなく、これを適用するか否かを問題としている現時点において決定するべきものである。
昭和四六年一月一二日現在、被告会社の従業員は、
1 管理職 五五名
2 EBC労働組合員 八七名
3 非組合員である一般従業員 一八名
4 非組合員である嘱託従業員 一〇名
5 福井放送労働組合員中の一般従業員 一五名
6 福井放送労働組合員中の嘱託従業員 一名
となつている。すると同種の労働者とは、右のうち2、3、5の合計一二〇名であるが、「一つの労働協約の適用を受ける者」すなわち「2、FBC労働組合員」は四分の三以上にあたらない。よつて同法一七条の要件を欠いている。
(二) 仮に右主張が認められないとしても、少数労働者が労働組合を結成している場合には、右労働者の団結権・団体交渉権を尊重し、組合の独立性を尊重しなければならない労働組合法の精神から拡張適用は否定されるべきである。
(三) 以上が認められないとしても、原告らの主張は信義則にもとるものとして許されない。
原告らは、福井放送労働組合として独自の要求を掲げて、被告と団体交渉を行なつているが、団体交渉の席上、FBC労働組合を御用組合と罵り、右組合の労働協約を福井放送労働組合員に準用することを強く拒み、例えば、福井放送労働組合員で就労している訴外山本敏子に対し支給した昭和四五年年末賞与に関し、福井放送労働組合と妥結していないのに何故支払つたか、FBC労働組合との協定に準じた支払は不当であると抗議している。
しかるに、本件ではFBC労働組合との協約の拡張適用を求めているもので、かかる主張は著しく信義則に反する。
三、同三のうち、基本給、食事手当、通勤手当、賞与に関する協定の内容が原告ら主張のとおりであることは認める。
四、同四の(三)の主張は争う。食事手当は現実に就労し、その結果職場の内外で食事をする際、現物支給にかえて食券を支給するというものであつて、原告らのように現実に就労していないものに対しては、不就労の事由如何にかかわらず現物支給の性質を有する食事手当を支給すべきではない。まして食券相当の金員を通貨によつて支給するよう求めることは、食事手当設置の目的を逸脱するだけでなくFBC労働組合員に対し不利益取扱をする結果となり、到底許さるべきでない。
五、同五の(一)のうち、原告田辺を除くその余の原告の昭和四二、四三年度の基本給を認めるが、同原告らの同四四、四五年度の基本給は争う。昭和四四年度のFBC労働組合員およびこれと同種の労働者の平均昇給額は六、九九一円であり、同四五年度のそれは六、二三六円である。原告田辺は一般従業員でなく嘱託であるから、嘱託としての基本給を支給されるべきである。
右被告の主張を数額で示したものが別紙第一九目録である。
同五の(五)の通勤手当は、現実に就労しその結果通勤費を支出した者に対して支給しようとする設置目的からみて、原告らのように現実に就労していないものに対しては、不就労の事由如何にかかわらず支給する余地はない。したがつて、原告らが通勤手当請求権を有することを否認する。
同五の(六)の請求権を否認する。
第四、抗弁
一、被告は、原告らに対し昭和四二年一二月一三日付書面をもつて同月一五日限り解雇する旨の意思表示をなし、そのころ右意思表示は原告らに到達した。その解雇理由は、
(一) 原告田辺を除く原告らは、被告会社の人事課長林涯一をして刑事上の処分を受けさせ、同時に被告会社の職制の権威を失墜させる目的で、同年八月一八日福井地方検察庁に対し「林涯一は昭和四二年六月七日被告の社屋内において大口健の右腕に受付の窓ガラス戸を打ちつけ故意に同人に対し全治まで約一週間を要する上腕部打撲傷を負わせた」旨の告発をして虚偽の事実を申告し、もつて右林を誣告し、
(二) 原告らは同年六月一〇日ころから同年八月一七日ころまでの間、数回に亘り福井放送会館および福井駅前付近において右告発事実とほぼ同旨の文言を記載したビラを通行人に配布し、公然事実を摘示して右林および被告の名誉を毀損するとともに、被告の権威を失墜せしめたが、右各行為は被告の就業規則六一条一二号後段、一七号、一二条四号に該当するので、五〇条第一号により解雇したものである。
二、仮に、右解雇理由が就業規則の解雇事由に該当しないとしても、原告らは法定刑が三月以上一〇年以下の懲役にあたる誣告という重大犯罪を犯しておきながら、右告発を維持するため、鳴物入りで被告ならびに林の名誉を毀損するビラ多数を配布したものであり、しかも右は多数の威力、共謀による行為で最も悪質なものである。したがつて右行為によつて雇傭関係の基本である使用者と労働者間の信頼関係は根本的に破壊され、まさに民法六二八条所定の「やむことを得ざる事由による雇傭関係の解除」に該当するから、本件解雇は民法六二八条、労働基準法二〇条に基づく雇傭契約の解消として有効である。
第五、抗弁に対する認否および主張
一、被告主張の解雇事由を示して解雇の意思表示がされたこと、原告らが林涯一を告発したこと、ビラを配布したことは認めるが、原告らの行為が誣告にあたるとの主張、就業規則に該当するとの主張は否認する。
被告の主張からは、原告らが林の行為を「過失による傷害」とすべきところ、「故意による傷害」として告発したことが誣告だと解しているようにもとれるが、原告らは「故意による傷害」として告発した事実はない。明らかに暴行の結果生じた傷害の申告である。そしてたまたま職制の犯罪行為につき告発したとしても、それが就業規則六一条一二号後段に該当する余地はない。
就業規則は当然のことながら「服務に関して」行われた行為に限定さるべきところ、原告らのビラ配布が「服務に関して」なされたとの主張もないし、そのような事実もない。
次に述べるように林の加害行為は明白な事実であるのに、福井放送労働組合が被告に対し、抗議しても詑びることをせぬばかりか真摯な態度で接することなく、団体交渉にも応じない。逆に右事実を公沙汰にすると誣告罪にもなるから警告する等と開き直るのである。そこで原告らは右被告の態度を改めさせるためビラ配布をしたもので、正当な宣伝活動(組合活動)であつて、名誉毀損とみるべき余地はない。
二、昭和四二年六月七日午後五時ころ、原告田辺を除く原告ら福井放送労働組合員一三名は、先に申入れてあつた夏季闘争要求の回答を求め団体交渉を行なうべく、被告会社受付に行き、責任者に会いたい旨申入れた。人事課長林涯一は受付にあらわれ誠意のない応答をし、その間二度受付窓を閉めようとしたが、原告らに阻止され閉めることができなかつた。そこで林は一旦社内に入つたが、原告山本が受付内に体をさし入れ、受付カウンター内のコールホンに手を伸ばそうとした途端、林は何か怒鳴りながら受付に現われ、突然受付ガラス戸を勢よく閉めた。その時、大口健は受付右側の柱に右腕をもたせかけていたが、不意をつかれ、身をひくいとまもなくガラス戸によつて右上腕部に受傷した。
第六、再抗弁
一、前段でみたように、被告のした解雇には被告主張の解雇事由は存在しないから、右解雇は正当な理由を欠く解雇として、あるいは権利の濫用にあたるものとして無効である。
二、本件解雇の意思表示は、労働組合法七条一号、三号、憲法二八条に違反する不当労働行為として無効である。
福井放送労働組合は、被告会社における劣悪な労働条件に耐えられず、昭和四〇年春、不当な配置転換を契機として闘争に立上り、同年三月二九日付をもつて人事同意約款を含む議事確認書に被告の調印を得、また被告から組合要求と殆んど合致する賃金回答を得るなど成果をあげた。被告は、このように正当な組合活動により着々と成果を納めつつある組合を嫌悪し、同年四月三日右議事確認書などを一方的に破棄するとともに、組合の徹底的壊滅を図つて同年五月一六日、原告らに対し自宅待機命令を出して被告社屋内に立入ることを禁止し、一方では暴力団を被告会社内に導入してロツク・アウトをした。被告はその後も引続き執拗な組合切崩し攻撃を加え、原告らに対し出勤停止、期限付休職、無期限休職の各処分を次々行なつてきた。本件解雇も、組合の全面的破壊をめざす一環として、組合員総数一六名のうち一四名までも解雇したものである。
被告の不当労働行為意思を示すものとして、次の事情を付加する。
被告は、昭和四四年一月から二月にかけて、訴外長谷川健蔵、同山西巧をして組合員宅を訪問させ、現金をちらつかせながら「一人につき三五〇万円の金を出すから組合から脱退し、争議から手を引くよう」との趣旨を伝えさせて組合の切り崩しをはかり、さらに暴力団を使つて暴力を加えてでも被告会社から退職させ、よつて組合から脱落させるべく計画し、同年四月二〇日、暴力団と自称する三枝徳夫ほか三名をして原告上田一郎を襲撃させ、同人に対し前胸部打撲などの傷害を負わせた。
第七、再抗弁に対する認否
一、再抗弁一を争う。
二、同二の事実のうち、原告らに対し自宅待機命令等各種の処分をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。
第八、証拠<省略>
理由
第一、本件解雇の当否
一、被告がその従業員である原告らに対し、被告主張のように本件解雇の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。よつて右解雇の効力について考える。
二、(一) 被告は、原告らに事実欄第四の一記載の事由があつたので就業規則を適用して解雇したと主張する。しかして被告主張のように、原告らが林涯一を告発したこと、ビラ配布をしたことは当事者間に争いがない。
(二) そこで先ず右告発が誣告に該当するか否かを判断する。
告発の内容である大口健が林涯一によつて負傷させられた経緯についての原告らの主張は、事実欄第五の二記載のとおりであり、これを裏付けるに足る成立に争いのない甲第二・三号証、甲第六号証、甲第四四号証および原告山本哲男本人の供述が存在し、証人谷靖彦の証言から認められるところの一般に打撲傷であつても擦過傷を伴うことがありうること、大口の傷は鈍力を加えれば生じうるもので、比較的軽い力でできる程度の軽度の負傷であることを総合すると、原告主張の方法で負傷することも可能であり、全く事実無限の主張と断定して排斥すべきものではない。
(三) しかし被告は、右傷害は虚構であり、ことさらに右前腕部を爪または荒繩のようなものでこすり、同部位付近に擦過傷を作つた疑いがあると主張し、これを支えるものとして
1 大口の腕の傷は、これを目撃した者によると、既に褐色を呈し、一見して数日前の古傷であることが明瞭である。
2 大口が受傷したという時まで受付のガラス窓は閉められていないから負傷する機会がない。
3 医師藤沢正清は大口の傷を古傷だと鑑定している。
4 受傷したという当時、大口は受付のガラス窓付近におらず、受付右側の東洋レーヨン株式会社福井営業所寄りに立つていたから、ガラス戸で負傷するはずがない。
5 受付ガラス窓の構造上(内側のガラス戸は固定されて開閉できず、窓を閉めるには外側のガラス戸を閉めなければならなかつた)、受付の内側から窓を閉めるには外側ガラス窓の外側に手をかけ若干引出し、手を内側の窓枠にかけかえなければならず、二動作を要するし、原告らが何度も閉めるのを妨害して阻止したことからみても、原告ら主張のようにいきなり閉めることは不可能である。
6 仮にガラス戸を閉めることによつて負傷させたとしても、人体の構造上前腕にも負傷するはずで、上腕のみが負傷することはありえない。
7 負傷させられた後の大口および原告らの態度からは、そのことを推認させるものが感じられなかつた。
と主張するので、順次検討していくことにする。
(四) 1 証人林涯一、同林薫、同三村訓章の証言および右各証言によつて成立の認められる乙第六、七、八号証、弁論の全趣旨から成立の認められる乙第九、一〇号証によると、大口が受傷した直後に傷を見た被告会社の職制および子会社の社員は、傷が既に褐色を呈し、かさぶたのようなものがついているのを見て、明らかに数日前の古傷だと判断していることが認められる。
証人林薫の証言により成立の認められる乙第二号証の四ないし八によると、大口の右上腕部に黒つぽく写つている部分が認められ、右目撃者はこれをみて古傷だと判断したものであるが、前示甲第六号証、成立に争いのない甲第四五号証ならびに弁論の全趣旨から成立の認められる甲第七号証、および証人谷靖彦の証言によると、昭和四二年六月七日夕方大口の傷を診断した谷医師は、大口の右上腕部に比較的新しい真皮にまで至らない程度の表皮の剥脱をともなつた皮下溢血をみて、右上腕打撲傷と診断し、処置し包帯を巻いたこと、右上腕部には右以外に傷があつたとの記憶はないことが認められ、傷が一個所であつたことおよび包帯の位置から、谷医師が診断した受傷の部位は、前記写真に写つている部分と同一のものと推認されることに徴して、前記古傷だとの判断は措信しがたい。もつとも、成立に争いのない乙第三八号証(但し「PM7」の記載を除く)は、田中病院における大口の診療録であつて、これによると、傷病名欄には「右前腕打撲」、処置欄には「リバ湿布」の記載があり、傷害の部位が異なること、リバ湿布は本来擦過傷等の際の処置としてなすべきであり、打撲傷に対する処置としては不適当であることが窺われるが、右診療録は訂正、入筆個所が多数あり、しかも筆跡・インクの色からみてそれが同一人の手になるものとは到底考えられず、証人の谷靖彦の証言によつても、右訂正・入筆につき十分な説明がなされないから、これを証拠として採ることはできない。したがつて、右診療録の記載に依拠する被告の主張は採用の限りでない。
2 前段2の主張を裏付ける客観的証拠として、一応乙第二号証の一ないし八が存在するが、原告らは、右写真を撮影するために林薫が受付に現われるより前の時点で受傷したと主張しているのだから、原告らの右主張を崩すか、あるいは受傷の時期が乙第二号証の一の撮影開始後であることを立証するに足る確実な証拠がない限り、被告の主張はとることができない。受傷は撮影開始後であるとの証人林涯一、同林薫の各証言は、同証言から同人らが、福井放送労働組合員対策の第一線に立つて活躍していたことが推認されるので措信しがたい。
3 成立に争いのない乙第一一号証、証人藤沢正清の証言によると、同証人は大口の傷の白黒写真をみて古傷だと鑑定したことが認められる。しかし、同証人も右証言で自認しているように、実物をみたのではなく、写真、しかも白黒写真を見ての鑑定であるから、その正確度は極めて低く、直ちに措信できない。
4 前段4の主張を裏付ける客観的証拠として、一応乙第二号証の一ないし四が存在するが、前記2と同様の理由で、採ることはできない。
5 検証の結果によると、受付の外側のガラス戸を内側から完全に閉めようとするには
イ まず窓枠の外側に手をかけて引き、途中でその手を内側枠に持ちかえるか、あるいは引手溝にあてかえるかする方法―二動作を要する。
ロ 窓枠の外側に手をかけて強く引き、その手を途中で突放するようにする方法―一動作で足る。
が可能であり、必ずしも被告の主張する方法に限られず、原告ら主張の方法でも閉めることは可能である。
6 弁論の全趣旨から成立の認められる乙第四号証、証人林薫の証言により成立の認められる乙第五号証の一ないし二〇は、写真のような身長・体格の人物が写真の位置状態でいる場合にガラス戸を閉められた場合には、前腕にも傷ができ、前腕が無傷で上腕だけに傷ができることはないことの証拠として、被告から提出されたものであり、慥かに上腕部にのみ本件傷害の部位程度の傷害が生ずることは不自然であるともいえる。
しかし、人により身長・体格に差異があること、肘を受付の方に深く入れるか否か、柱に体をもたせかけるにしても、主として肩の方でもたれるか、肘の方でもたれるか否か、ガラス窓が閉まつてくる瞬間に身をひくのと、腕がはさまれるまで同じ姿勢でいるか否かによつて差異が生じることは容易に考えうるところであり、必ずしも被告主張のように結論づけることはできない。
7 成立に争いのない甲第四四号証によると、大口は受傷の瞬間「痛い」と口に出していないし、簡単な傷の手当をしたことも、出血のため衣服が汚れたこともないことが認められる。
傷が軽度である場合には、右のような状態であつても何ら不自然ではない。また、当裁判所は原告本人山本哲男の「表皮が剥離したような感じで、丁度ひげの濃い人がカミソリ負けすると血がツブツブと出ていた感じの傷であつた」旨の供述部分(成立に争いのない甲第四四、四五、四六号証の記載中同旨の部分についても同様)をそのまま信用するものでないし、林涯一が受付窓を閉めようとした際、右窓外枠が大口健の右上腕部に当たり同人の同部位に軽度の外傷(擦過傷)を与えたこともあり得ることであると判断するものであつて、右認定に反する証人三村訓章の「大口健の傍にいたとき、同人が警察が来たらどうする」というのを聞いた趣旨の供述部分は直ちに措信できない。
以上の次第で、本件傷害が虚偽であるとか、右傷害が被告主張のように捏造されたものであることを認めさせる証拠はなく、他に右認定を左右できる証拠はない。したがつて、原告らが誣告行為をしたとの被告主張は採用できない。
三、次に解雇の事由(二)について判断するに、原告らが被告主張のとおりにビラを配布したことは前認定のとおりであり、証人林涯一の証言から成立の認められる乙第三二号証、成立に争いのない乙第三五号証の一ないし一二によると、配布したビラの内容は、組合活動としては正当な範囲をこえるもので、被告および林涯一個人の名誉を毀損するものだといえる。しかし、成立に争いのない甲第二八、二九号証ならびに甲第四五号証、弁論の全趣旨から成立の認められる甲第一五号証により認められるところの昭和四〇年以来の福井放送労働組合と被告間の確執拮抗の経緯・態様、殊に原告らは昭和四〇年五月の自宅待機命令以来、被告の社屋内に入ることは許されず、以来二年余りにもなるのに、いつまで続くか分らない休職処分に付されたままで、極度に不安定な状態であつたこと、それにもかかわらず、被告は組合の要求する団体交渉に一切応じようとせず、原告らを被告会社から全く排除していた状況にあつたことにてらすと、前記ビラの内容について行き過ぎのあつたことは否定できず、また更に遡つては昭和四〇年五月ごろまでにおける原告らの所属する福井放送労働組合の行動に正当な範囲を逸脱した違法なものがあり、これに因り被告の正常な業務の運営が著るしく阻害されたため、被告が同組合との闘争に対抗するため、前記自宅待機命令を発し、放送事業の遂行を企図するに至つたことの事情を参酌しても、原告らが前記内容のビラを配布したことをもつて一概に原告ら一方の責任に帰せしめることは正当でなく、これを解雇せねばならぬほどの行為、すなわち就業規則六一条一二号、一七号にいう「情状最も悪質な者」に該当するとはいえない。
四、被告は、仮に就業規則該当の解雇事由が認められないとしても、原告らの前記誣告やビラ配布行為により、被告と原告ら間の信頼関係が破壊されてしまつたから、民法六二八条により、雇傭契約を解除するのだと主張する。
民法六二八条は「やむことをえざる事由」ある時は、雇傭契約を解除することができる旨定めているが、右の「やむことをえざる事由」とは使用者の事業が不可抗力に基づいて全部または一部廃止せねばならなくなつた場合などを予想しているので、被告主張のような信頼関係の破壊などは本条の予想するところではない。なるほど、雇傭契約にあつては、使用者と労働者との間に信頼関係の存在することは必要であり、そのためにこそ、その具体化された行為を解雇事由として就業規則や労働協約に列挙するのである。したがつて、原告らの同一行為をとらえて信頼関係の破壊だと主張したとしても、抽象的に表現しただけのことであり、具体的な行為として就業規則の解雇事由に該当せぬ以上、解雇事由になりえない。
五、右にみたように、被告が本件解雇事由として主張するところは、何れも認められないから、本件解雇は正当事由を欠くものとして、解雇権の濫用となり無効たるを免れない。
第二、被告とFBC労働組合との間の労働協約を原告らに適用することの可否
一、右にみたように、原告らは本件解雇処分にかかわらず、被告の従業員であるということができ、右無効な解雇を理由に被告から就労を拒否されているのだから、原告らは被告に対して労働契約上の賃金その他の請求権を有しているということができる。
被告はFBC労働組合との間に昭和四〇年以来、毎年原告主張のような(但しレクリエーシヨン補助金に関する部分は除く)賃金協定等を結んでいること、FBC労働組合員に対しては、右協定に従つて賃金や夏季・年末賞与を支給していることは当事者間に争いがない。
原告らは、右の各協定は労働組合法一七条により原告らにも拡張適用されるべきものであり、したがつて右協定所定の方式で算出した賃金等の請求をすると主張するので、協約の適用の有無について判断する。
二、証人倉内利勝の証言により成立の認められる乙第一〇二号証によると、昭和四〇年から同四六年一月までの被告会社における従業員の構成は別紙第二〇目録記載のとおりであることが認められる。
管理職はその職務からみて、FBC労働組合員と同種の労働者でないことは明らかであり、また被告の賃金規定七条が、嘱託従業員の賃金はその都度定めると規定していることは、当裁判所に顕著な事実であり(当庁昭和四四年(モ)第一二六号事件の乙第二号証参照)、証人倉内利勝の証言によつても嘱託は一般従業員とは別の取扱がなされていることが認められるので、嘱託も同種の労働者から除外されることになる。
しかしてFBC労組との協約が非組合員の一般従業員にも適用されていることは被告の自認するところである。弁論の全趣旨から成立の認められる乙第一〇〇号証によると、原告田辺が嘱託であることが認められるから、労働組合法一七条の適用に際して「同種の労働者」とはFBC労働組合員、非組合員の一般従業員、原告田辺を除く福井放送労働組合員を合せたものであり、「協約適用者」はFBC労働組合員だけでなく、非組合員の一般従業員も含むと解されるので、昭和四〇年以来常にその数は同種の労働者の四分の三をこえていることが明らかである。そうである以上、前記各協定は労働組合法一七条により、原告田辺を除くその余の原告らにも適用されると解するのが相当である。
協約適用者をFBC労働組合員に限るべきだとの被告の主張は、当裁判所の採用するところではない。
三、(一) 被告は、原告らが労働組合を結成しているから組合の自主性を尊重する見地から原告らに右協約を適用すべきでないと主張するが、当裁判所はこの見解をとらない。なんとなれば、労働組合法一七条は四分の一に満たない労働者が組合を結成している場合には、適用を除外する旨の明文の規定をおいてないこと、また右の少数組合が、多数組合の締結した協約よりも、さらに有利な内容の協約成立を目的として団体交渉、団体行動をすることは自由であるから、多数組合の協約を少数組合に適用しても、少数組合の自主性を奪うことにはならない。ただ、多数組合の締結した協約の内容が少数組合の既有の権益を侵害するものであれば、その限りにおいて右協約の適用が制限されることのあるのは当然である。のみならず、拡張適用の余地を残しておくことは力関係で弱い立場に立たされた場合の少数組合に多数組合の協約の限度までは保障することになり、実質的にみた場合の自主性尊重に適すると思料されるからである。
(二) 被告は、原告らがFBC労働組合の協約の適用を主張することは、信義則に反し許されないと主張する。
原告らがFBC労働組合とは別に、福井放送労働組合を結成し、独自の要求をかかげて団体交渉を行なつている限りでは、FBC労働組合の協約の適用を拒絶するのは当然のことであり、団体交渉の結果協約が成立しない場合に、不本意ながら次善の策として右協約の適用を主張するのであつて、何ら信義則に反しない。
四、ところで、前認定のとおり、原告田辺は嘱託であるから、右にみたように協約の適用の関係では同種の労働者と認められないことになるが、弁論の全趣旨から成立の認められる乙第一〇一号証に証人倉内利勝の証言を総合すると、
被告とFBC労働組合との協定によつて、昭和四四年四月二一日以降、嘱託は右組合に加入できなくなつたが、それまでは嘱託も右組合に加入できたのであり、賞与についてはFBC労働組合員と同じ基準で計算した額(但し昭和四五年度年末賞与の場合は組合員のそれの八〇%)を支給していたことが認められる。また、従前から嘱託に対しては一般社員とは別途に賃金を定める旨の賃金規定があり、常傭雇員と同一基準による賃金を支給し、FBC労働組合の協定によつて昇給すると、それに合わせて嘱託の賃金も当然昇給していたことは、当裁判所に顕著な事実である。そうだとすると、原告田辺においても特段の事情のない限り他の嘱託従業員と差別した取扱をされるはずはなく、右特段の事情について、被告からの主張がない本件にあつては、被告が原告田辺以外の他の嘱託との間で、年々賃金を改訂ないし決定してきたことにより、同原告に対しても、同原告以外の嘱託に適用したのと同じ基準による賃金賞与等を支払う義務があるといわなければならない。
第三、原告らの請求権について
一、FBC労働組合の昭和四〇年度の賃金協定によると、賃金は基準賃金と基準外賃金とからなり、さらに前者は基本給、技術手当、年功手当、家族手当、役職手当とからなつていること、その後の協定により、通勤手当、食事手当が新設されたこと、昭和四二年度以降も毎年賃金協定が締結されていること、昭和四三年以降夏季・年末賞与に関する協定が締結されていること、右各協定の内容は、原告ら主張のとおりであることは当事者間に争いがない。
なお、右各協定には不就労条項(基準日に実勤務していない者を昇給対象者から除外する旨の規定、および不就労の期間に応じて所定賞与の額より減額する旨の規定の両者を含む)の規定がある。原告らが昭和四〇年五月一六日以来就労していないことは原告らの自認するところであるが、右不就労は無効の解雇処分等を理由として、被告がその就労を拒絶したことによる被告の側の責に帰すべき事由によるものであるから、右条項は原告らに適用されない。
二、基本給
昭和四二年度、四三年度の原告田辺を除くその余の原告の基本給は当事者間に争いがない。
原告田辺については、前述したように常傭雇員としての賃金体系によるべきである。同原告が昭和一一年九月二二日生れで高校卒業者であること、昭和三八年八月被告会社に入社したことについて被告は明らかに争つていないので、これを認めたものと解される。成立に争いのない甲第四八、四九号証によつて認められる常傭雇員の年令別基本給体系に、別紙第六目録記載の表から中途採用者としての換算率を出し、算出したものが同人の基本給であり、被告主張の金額と一致する。なお、協定によると、一〇%の査定をすることになつているが、実際には平均査定額は零である旨被告が自認しているので、右原告らについて査定をしない。
昭和四四年度、四五年度の基本給については、基本給を本給と職能給に分け、後者につき全額査定をすることになつている。査定分が含まれるため、原告らの基本給は、被告の査定をまつてはじめて適正な額が確定されることになるが、原告らは就労しておらず、したがつて被告の査定はないから、具体的な数額を確定することはできない。しかし衡平の見地からみて、少なくとも平均額の限度で昇給を認めるのが相当であると解されるところ、被告は昭和四四年度の昇給額につき六、九九一円の、同四五年度のそれにつき六、二三六円の限度でこれを認めているので、前年度の基本給に右増額分を加算して基本給を算出する。
以上により算出した原告らの基本給は別紙第二七目録記載のとおりとなる。
三、技術手当
原告山本、同高木、同坂本、同浜野、同中川が昭和四二年当時、別紙第一一目録記載の資格を有していたことおよびその各資格について、同目録下段記載の金員が支給されることを被告は明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。したがつて、右原告らは毎月同目録下段記載の金員請求権を有することが認められ、右原告らの昭和四二年一二月一五日から同四五年末までの技術手当は、別紙第二一目録記載のとおりとなる。
四、年功手当
原告らの入社年月が別紙第九目録記載のとおりであること、原告ら主張の内容の年功手当が支給されることを被告は明らかに争わないから、これを自白したものとみなし、所定の方式に従つて計算すると、原告らの昭和四二年一二月一五日から同四五年末までの年功手当は、別紙第二二目録記載のとおりとなる。
五、家族手当
原告山本、同高橋(国)、同福地、同高木、同坂本、同安藤、同浜野、同中川には、別紙第一三目録記載の扶養家族があること、および原告らは右家族数に変動が生じたその月のうちに被告に対し所定の手続を経ていること、原告ら主張の内容の家族手当の支給があることを、被告は明らかに争わないから、これを自白したものとみなし、右目録によつて所定の方式で算出すると、右原告らの昭和四二年一二月一五日から同四五年末までの家族手当は、別紙第二三目録記載のとおりとなる。
六、通勤手当
右手当は、賃金の一部とはいえ、他の手当と趣を異にしており、その性質は現実に就労し、その結果通勤費を支出した者に対し、実費支給しようとするものと解されるから、原告らは現実に就労していない以上、通勤手当請求権を取得することはできない。
七、食事手当
右手当は、賃金の一部であるから不就労の場合であつても支払うべき筋合のものである。協定によると食事手当は食券で支給することになっているが、右は昭和四二年度より昭和四四年度までは月額一、〇〇〇円、昭和四五年度からは月額二、〇〇〇円の食事手当の現金支給に代わるものとして食券が支給されるのであるから、原告らについては右食事手当金額の賃金債権があると考えて差支えない。
よつて所定の方式によつて算出した原告らの昭和四二年一二月一五日から同四五年末までの食事手当は、何れも別紙第二四目録記載のとおりとなる。
八、夏季・年末賞与
原告らは、前記協定における査定条項は原告らに適用されるべきでないから、査定部分を考慮せずに全額の支給をうける権利があると主張するが、右協定が原告らにも適用のあることは既に認定したとおりであり、また査定条項自体何ら不当なものでないから、これを無効と解すべき余地はない。しかし本件全証拠によるも、原告らに対する査定額を認定することはできないから、右査定部分を控除した残余部分について、原告らの請求権を認めることとし、原告らの基本給は別紙第二七目録記載のとおりであるから、所定の方式に従つて算出すると、原告らの昭和四三、四四、四五年の夏季・年末賞与請求権は別紙第二五目録記載のとおりとなることが認められる。
九、レクリエーシヨン補助金
成立に争いのない甲第四九、五四、五七号証によると、昭和四三年から同四五年まで、毎年春季レクリエーシヨン補助金に関する協定が被告とFBC労働組合との間に締結され、各五、〇〇〇円宛支給する旨を定めている。
したがつて、原告らは右の期間各五、〇〇〇円のレクリエーシヨン補助金請求権を有するということができる。
しかし、本件全証拠によるも秋季レクリエーシヨン補助金についての協定があることを認めることはできないので、秋季レクリエーシヨン補助金の請求は理由がない。
一〇、右の次第で、原告らの請求金員のうち、昭和四二年一二月一五日以降一ないし五、および七ないし九で請求権があると認定された部分については理由があるので、被告は原告らに支払うべきである。
そして、右のうち昭和四五年一二月末に弁済期の到来しているものを総計すると、別紙第二六目録の原告別合計欄記載の金額となる。これがすなわち、別紙第一目録(五)記載の金員である。
一一、右第一目録(五)記載の金員のうち、同目録(一)ないし(三)に記載した昭和四二年度から同四四年度までの分(別紙第二六目録の各年度別合計欄記載の金員)については、弁済期後であること明らかな各年度末の翌日から、同第一目録(四)に記載した昭和四五年四月一日から同年一二月末までの分(同第二六目録の昭和四五年度分合計欄記載の金員)については、弁済期後であること明らかな同四六年一月一日からそれぞれ支払ずみに至るまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金を請求しているが、何れも理由がある。
一二、将来の請求
被告は原告らに対し、昭和四二年一二月一五日以来、任意に賃金等の支払をしていないことは明らかであり、右事実から、将来も任意に支払をすることが期待できない。しかも原告らは賃金労働者として右賃金だけで生活していること、被告の賃金支給日は毎月二五日であることは当裁判所に顕著な事実であるから、昭和四六年一月一日から毎月二五日限り、別紙第二目録記載の金員について、将来の給付を求めるにつき必要があると認められるので、右請求は理由がある。
通勤手当については請求の理由がない。
第四、結論
以上の次第であるから、原告らが被告に対し、労働契約上の権利を有することを確認するとともに、原告らの各種請求のうち理由のある限度でこれを認容し、その余の部分は棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、九二条但書を適用し、金銭の支払を命じた部分に対する仮執行の宣言は、賃金賞与等の仮払を命じた別件仮処分のあることにかんがみ、これを付さないこととして、主文のとおり判決する。
(裁判官 山内茂克 熊谷絢子 大淵武男)
(別紙省略)